Better than nothing夫婦

米国ナーシングホーム勤務女性の毎日のあれこれ

ニコニコお婆さんD

Dは気の良いお婆さんだ。老人性のアルツハイマーで、かなり記憶が薄れ、今は余り会話もできない。元看護婦という88歳の彼女は、歩行器に自分の子供という人形のサムを乗っけて自分の部屋から食堂へやってくる。実際は彼女は結婚したことはなく、従って子供もいないけど、時々サムをおくるみごと大事そうに抱き上げほおずりしたり、キスをしたりしている。

 

看護士たちは彼女のことをグランマDと呼んで親しく思っている様子だ。食事は以前喉に食べ物を数回詰まらせた結果から、舌でつぶせる柔らかい食べ物、肉系は液状にした物しか食べさせてはいけない事になっていて、キッチンから彼女用の特別食が毎食ごとに送られてくる。それを彼女は残らず平らげ、デザートがあればそれもきれいに平らげる。

 

いつもニコニコして、食事を目の前の置いてやれば、自分でスプーンで食べるので手が要らないことも、看護士たちが彼女を好きな理由だ。それと彼女は飲み物が大好きで、大きなプラスティックのコップのとろみをつけたジュースをすぐ飲み干す。だから又ついでやると又それを飲み干す。キリがない。でも、私はこれが彼女の長生きの秘訣の一つではないかと思っている。

 

Dは私が働き始めた3年前から「野原」の住人だ。20人近くいた老人たちも3年の間に殆ど一人ずつ亡くなってしまった。「野原」は、頭がボケ、体の自由もほぼ失ってしまった老人たちが住むエリアで、外出も自由にはできない。この施設で働き始めたときに、「野原」に移されるということは頭も体も弱って、余り長生きできそうにないと判断された人達が来るところだと教えられた。

 

その中でDは、確かに3年前より顔に老いが見え、身体も弱っているが、それでも、車椅子での移動をする老人たちが多い中、今日もサムを毛布に包んで、自分で歩行器を押して朝ごはんを食べにやってくる。